橘万季 成崎千歳
「初めまして、誘拐犯よ」 「私の初恋を叶えてくれない?」 目が覚めると、見知らぬ部屋のベッドの上。 足枷をつけられたあなたに微笑みかけるのは、見知らぬ人。 「貴方を好きになったの。初恋よ」 「だから、貴方も私を好きになってちょうだい」 「初恋は叶わない……なんて、嫌でしょう?」 あなたを誘拐し、監禁したその人は酷く愛おしそうに囁いた。
【クトゥルフ神話TRPGシナリオ】初恋性ストックホルム症候群
草木も眠り、月だけがぽっかりと街を見つめる深夜。不気味なほどくらい帰り道をあなたは歩いていた。仕事帰りだろうか、なにか用事があったのだろうか。
そんな中、あなたはふと公園に差しかかる。時計を見れば23時59分、あとわずかに針が傾けば日付が変わってしまうだろう。 もうこんな時間か、あなたは背を向けて再び帰り道を歩き出す。 しかし、突然の鈍い痛みがあなたを襲った。一瞬後、後頭部を殴られたことに気付く。声を出す前にぶつりと、糸を引きちぎるように意識が途切れた。 【聞き耳】 意識が沈むその間際、カチリと針の進む硬い音がした。日付が変わったのだろうか、そんな呑気な考えがふと泡のように浮かび、ぱちんと意識とともに消えた。 『洋館 寝室』 ゆっくりと、誰かが近くにいるような感覚に揺さぶられてあなたは目を覚ました。
ぼやける視界に映ったのは古びた天井、そして柔らかなシーツ。自分がベッドに寝かされていることにあなたは気付くだろう。 「起きたわね、万季」 聞き覚えのない声があなたの名前を呼ぶ。ギシリとベッドを鳴らしてあなたをのぞき込むのは見知らぬ女性。
彼女はあなたに指を伸ばし、頬に触れて僅かに微笑む。 「案外元気そうね、おはよう。と言ってももう昼だけれど」 見知らぬ場所、見知らぬ人。ぞわりと産毛が逆立つような恐怖をあなたは覚えるだろう。そんなあなたを見て、彼女は薄らと笑みを浮かべて続ける。 「初めまして、貴方を誘拐した成崎 千歳(なるさき ちとせ)よ。これから末永くよろしく」 __誘拐、そして監禁。なんてことなさそうに告げるその人にさらなる恐怖が混み上がる。SAN値チェック1/1d2。 【KPCに聞き耳】 ほのかに花の匂いがする。 【博物学、生物学】 この花がこの世界のどこにも存在しないものだとわかる。SAN値チェック0/1。 《質疑応答例(KPC)》 あなたは誰? 「私は成崎千歳だって言ってるじゃないの。貴方にとっては『誘拐犯』でもあるわね」 ここはどこ? 「あー………。どこかの洋館よ、結構広くていいところでしょ?」 帰りたい。 「帰さない」 いつまでここにいればいいの? 「………私こと、好きになるまで」 なんで誘拐したの? 「貴方に一目惚れしたから。初恋よ」 ・ある程度会話した 千歳は微かに口元に笑みを浮かべ、あなたを見つめている。そしてふっと目を細めると少し眉を下げ、少しだけ小さな声で囁いた。 「怪我は痛くない? 手荒な真似してごめんなさいね」 誘拐犯である彼女はあなたを心配するような事を言うだろう。 【心理学】 本気であなたを心配し、殴ったことを申し訳なく思っているのがわかる。 ・KPCに心配された後 ちらりと目線を向ければここは何処か朽ちた寝室だった。あなたが寝かせられているベッドの他には一枚の扉、そして木が打ち付けられた窓があるだけだ。
ここであなたは自分の右足に違和感を覚える。見れば、そこには鉄でできた丈夫そうな足枷がはめられていた。
鎖が長く伸びており、それは床にある金具に取り付けられている。逃がさないというように。 《探索可能場所》 足枷、窓、ベッド、KPC、扉。 ・足枷 黒い鉄で作られた足枷は鍵がかけられており、壊せそうにない。鎖はかなり長く、この部屋を出てもまだまだ余裕がありそうだ。 ・窓 木の板でしっかりと塞がれている。ワイヤーで補強された板なので素手で壊すのは難しそうだ。 【聞き耳】 外から人の声は聞こえない。また人の気配もない。大声で騒いだりしても助けは来ないだろう。 ・ベッド あなたが寝かせられていたベッドだ。黄ばんだ天蓋が吊るされており、全体的に古びているが敷かれたシーツは新品のようだ。枕元に小さな時計が置いてあり、それは昼前をさしている。 どうやら自分は半日近く寝ていたのだとここでようやく気が付くだろう。 ・KPC よく見ると彼女の首に金のロケットペンダントがかかっているのが分かった。 ・扉 普通の木の扉であり、鍵はかかっていないようだ。あなたがその扉に触れると千歳は 「動ける範囲は好きなところ行ってどうぞ。私もついていくけれど」 とあなたに声をかけてくる。 『部屋を出る』 部屋を出ると広々とした広間に出た。若干埃っぽい。この部屋以外に四つの部屋があり『厨房』『物置』『書斎』『衣装室』と書かれている。上へ向かう階段もあるが、鎖の長さが足りないので上へ行くことは出来ないだろう。 また、玄関ホールへ向かう大きな扉がある。 《探索可能場所》 厨房、物置、書斎、衣装室、玄関ホールの扉
『厨房』 中に入ると良い香りがした。見ればことことと電気式コンロの上で鍋が鳴っている。何やら料理をしている最中のようだ。厨房は多少古びているが十分使えそうに見える。また、持ち込まれたであろう冷蔵庫が置いてあった。 《探索可能場所》 鍋、冷蔵庫 〈KP情報〉 ・聞き耳 扉に聞き耳をしたいという宣言があった場合『かすかに機械音がする』と描写してください。 ・鍋 開けるとそこには美味しそうなクリームシチューが入っていた。あなたの好きなものだ。好物の良い匂いにぐぅ、とあなたのお腹が鳴る。千歳はにやりと笑い「昼食にしましょうか?」と訊ねてきた。 【アイデア】 このクリームシチュー、あなたの苦手なにんじんが入っていない。もしや好みを完全に把握されているのではないかと思い身の毛がよだった。SAN値チェック0/1。 ・冷蔵庫 何の変哲もない普通の冷蔵庫のようだ。開けると中にはあなたの好きなものが詰め込まれている。 【アイデア】 この屋敷は全体的に古びており、人が住まなくなってから長い時間が経ったように思える。電気が通っているとはとても思えないが、確かに冷蔵庫は動いているしコンロも動いている。 ・冷蔵庫、コンロのコンセントを確認するという宣言があった場合の描写。 コンロ、冷蔵庫のコンセントが小さな機械に接続されているのを見つけた。それは辞書ほどの大きさしかない真っ白な機械で、スイッチなどはない。 【白い機械に対して電気修理、電子工学】 これはバッテリーのようだがどうにもおかしい。このサイズで電気コンロや冷蔵庫といった大型の家電を動かすなんて出来ないだろう。 この機械の仕組みや使い方もよくわからない。おかしなことに気付いたあなたはSAN値チェック0/1。 ・厨房である程度探索を終えた 「こっちに来たなら折角だし食事にしましょう」 千歳はそう言うと鍋からシチューをよそってテーブルに置く。ミルクとコンソメの匂いがあなたの空腹を刺激した。 〈KP情報〉 ・食事 食べるとKPCは喜びます。また、食べない場合はCON×5ロールが発生し、失敗すると空腹により何か食べるまで全技能に-10%の補正がつきます。 『書斎』 埃をかぶった書き物机、革張りの椅子、小さな本棚があるシンプルな部屋だ。分厚い絨毯がしかれている。 《探索可能場所》 書き物机、本棚 ・書き物机 古びているが丈夫そうな机だ。上にはインク軸のないボールペンだけが瓶に入れられて置かれていた。
引き出しが半分ほど開いており、その中には二枚の見取り図が入っていること。どうやらこの屋敷の見取り図のようだ。 ここで屋敷の見取り図を公開する。
・本棚 分厚い本が数冊収められている本棚だ。どの本もあなたの知らない言語で書かれており内容は分からない。 【図書館】 本の中から地図が描かれたものをみつける。言語は違うがこれは地図帳で、これはどうやらここら一帯の地図のようだ。 【地図に目星、アイデア、ナビゲート】 眺めていると自分の家が建っている地区が目に入った。どうやらここから自宅までそう遠くはないようだ。
ここは少し離れた丘の上で、周りに家はないものの丘を下りれば街があることもわかる。 『衣装室』 そこは部屋がまるごとクローゼットになったような場所だった。あちこちに古びた、しかし豪勢な服が吊り下げられている。
装飾が施された棚もあり、そこにはいくつかアクセサリーが収められている。 【目星】 衣装の隙間から真っ白な布が見えた。
取り出すと、それはウェディングドレスだった。純白のレースとチュールに、散りばめられたガラスビーズ。きらきらと照明を反射して光るそれはとても綺麗だ。 【ドレスにアイデア】 このドレスが自分にぴったりのサイズであることに気が付く。これは、あの誘拐犯のものだろうか。気味の悪さにSAN値チェック0/1。 〈KP情報〉 ・婚礼衣装 PCによってドレスかタキシードかは変えてください。 未来のPCとKPCが二人で選んだドレスで、PCが着る予定のものでした。KPCは「結婚式に必要だろ?」などと言って誤魔化します。 時間遡行の方法を見つける間の心の励みにしていたからなど、KPCがこれをわざわざ持ってきた理由は好きに設定してください。 ・サイズ PCがまだ幼い場合は成長して体型が変わる可能性があるのでアイデアの情報は出さなくて良いです。 『物置』 薄暗く、一際埃っぽい場所だ。がらくたがあちこちに積み重ねられている。目を凝らせば奥にもう一枚、扉があることに気付くだろう。 【目星】 物置の中でひとつ、綺麗なローテーブルを見つける。その表面は丁寧に磨かれており、上には木でできた小箱が乗っていた。四桁のダイヤル錠がついており、あかない。 ・小箱について言及する。小箱に触れる あなたが小箱を持つと、千歳が「……あ」と声をもらす。そしてあなたの手を取ると、小箱ごと愛おしそうに手の甲をなでるだろう。 「…………」 彼女は静かに小箱を見つめ、どこか愛おしげに、どこか悲しげにあなたと手ごと小箱を握りしめた。意外な程に柔く優しい体温があなたの手にじんと響く。 「ねえ、それ。貴方が持っていてちょうだい」 「………お願い」 震える彼女の声はどこか頼りなく、親とはぐれた幼い子どものようだった。 ・物置を出ようとした あなたが物置を出ようとすると、頭上からがらりと音がした。何が起きたか把握する前に千歳があなたの腕を掴み、壁にあなたを押し付ける。
掴まれた腕が痛い、そう思った瞬間、凄まじい音と埃を上げてがらくたが上から落ちてきた。どうやら積み上げていたもののバランスが崩れたらしい。 あなたを庇うように立つ千歳のこめかみに小さな箱が激突し、彼女から血が流れた。 「大丈夫!?」 千歳の声が響く。大怪我をしているというのに、彼女自分の傷などそっちのけで心配そうにあなたに触れた。その目は心配そうに揺れている。 先程まであなたがいた場所には、がらくたの山が出来ていた。彼女が庇ってくれなかったら今頃彼よりもひどい怪我を負っていただろう。 『玄関ホールへの扉』 ほかのものよりも大きく立派な扉だ。丈夫そうな扉の取手には鎖が幾重にもかけられており、その上から南京錠で止められている。開けることは出来ないだろう。 『一日目の探索が終了した』 あなたがある程度調べ終わる、千歳が思い出したように声をかけてくる。 「……もう夜かしら。万季、食事にしましょう」 彼女はそう言ってあなたの手を取ると、あなたを厨房へ連れていく。あなたを厨房へ入れると、彼女は抜け目なく厨房の扉に内側から鍵をかけた。あなたが逃げられないように。 そして冷蔵庫から食材を取り出すとあなたを見て「何か食べたいものは?」と尋ねてくるだろう。 ・KPCが料理をする 千歳は慣れた手つきでとんとんと食事を作り、あっという間にあなたに振舞ってくれるだろう。
白い湯気をあげるほかほかのオムライスはとろとろの卵に真っ赤なトマトソース、上にはとろけたチーズがかけられておりてとも美味しそうだ。 【アイデア】 このオムライス、あなたの苦手なにんじんが入っていない。もしや好みを完全に把握されているのではないかと思い身の毛がよだった。SAN値チェック0/1 ・食事を終えた 食事をすると、満腹感からかゆっくりと眠気がおりてくるだろう。それに今日は本当に色んなことがあって疲れてしまった。
特に精神面でだ。もう、眠ってしまいたいという欲求が頭をもたげるだろう。 ・就寝 あなたがベッドに入ると千歳は優しく微笑んだ。彼女はあなたの頬を軽く指でなぞり、愛おしそうに囁く。まるで恋人のように。 「__万季、おやすみなさい」 彼女は誘拐犯だ。初恋だ、なんだと言って人を攫うような狂人だ。
それなのにその声は酷く優しい。その目も、温度もそうだ。触れる指先は柔く、それはあなたをゆっくりと眠りに落としていった。 『夢』 __柔く手を包む温度で、あなたははっと目を覚ました。青い空と柔らかな日差し、あなたの頬を撫でる風。とある街角にあなたは立っていた。 「万季、今日はどこに行こうかしら?」 甘い声がかかる。隣を見れば頬を染めて幸せそうに笑う千歳が立っており、あなたをただ恋しげに見つめていた。彼女はあなたと手を繋いでおり、指が絡んでいる。あなたはこれに愛おしさすら覚えるだろう。 彼女は、千歳はあなたの恋人なのだから。 彼女と視線が交わる。目が合う、それだけで彼女は嬉しそうにはにかんだ。繋がる体温も、その瞳も、どうしようもなく愛おしい。彼女の優しい視線に胸が高鳴った。 「……そんな嬉しそうにされると、なんだかこっちも照れるわよ」 「ほら、行きましょう万季。折角のデートなんだから」 彼女はあなたの視線に照れたように目を逸らしつつそう言った。
今日は天気も良く、世界の全てがあなたたちを祝福しているように感じる。
どこへ行こうか、なんて話をしながらまた目を合わせる。彼女と一緒ならばどこへ行ったってとびきりの一日になるだろう。 ぎゅうと手を強く繋いで、あなたたちは歩き出した。
二日目
・目覚め
__あなたは目を覚ます。薄く目を開けて自分のいる場所を確認すれば、そこは誘拐犯に連れてこられたベッドの上だった。足首の重い感触は足枷だろう。
あなたが起きたことに気がつくと千歳は手を止めた。どうやら首から下げているネックレスについたロケットペンダント、その中にしまい込まれていたらしい指輪を見ていたようだ。
彼女の手の中で銀の指輪がきらきらと光をこぼす。彼女はあなたを見て微笑んた。
「おはよう」
その優しい笑みにあなたの胸はほんの少し、だが確かに高鳴る。まるで心臓が恋を覚えたように。
「朝ごはん、用意してあるわよ」
そのしんと響く声にすら好意を覚えてしまう。
逃げるように彼女が指さした先、ベッドサイドにあるテーブルを見ればそこにはコンビニのパンとジュースのパックが詰まれていた。どれもあなたの好きな物ばかりだ。
それを嬉しいと思うのは、おかしいだろうか。
微かだが、まるで恋のようなものが自分の中にあることに対してSAN値チェック0/1。
・SAN値チェック後
千歳は指輪を服の中に仕舞うとあの夢で見たのと同じ、どこまでも優しく恋しげな目であなたを見つめ始めた。
その視線にどうしても心がざわついてしまう。胸が高鳴ってしまう。それが落ち着かなかった。
【KPCに目星】
その頬がほんのり赤く、ほんの少しだが息も荒い。調子が悪そうに思える。
【目星成功後医学】
KPCが体調を崩しているのがわかる。微熱もあるだろう。
・食事を終えた
あなたが食べ終えたのを確認すると彼女は困ったように笑った。
「ごめんなさい、今日は少し体調が良くなくて……。今日はあまり貴方についていけないわ。あぁ、貴方とってはいいことだったかしら。ふふ………」
「……鎖は伸ばしておいたし、入ってほしくないところには鍵をかけてあるから。行ける範囲で好きなところ行っていいわよ。暇でしょう?」
鎖を確認すると、確かに鎖が長くなっている。これなら二階に行くこともできるだろう。
『二階』
あなたが階段を登ると千歳はついてくる。少しふらついているが手すりをしっかりと握っているので転がり落ちることはないだろう。
二階には部屋が三つあった。一つ一つの部屋にプレートがかけられ『客間』『遊戯室』『図書室』と書いてある。千歳はあなたを見ると、階段の横に倒れ込むようにして座った。
「…………私は、ここで待ってる………。お願いだから、お願い………危険なことだけはしないで…………」
そしてそのまま熱い息を吐くだろう。体調はやはり芳しくないようだ。
《探索可能場所》
客間、遊戯室、図書室
『客間』
広々とした客間だ。あなたが監禁されている部屋より埃っぽく、汚れが目立つ。
劣化したマットレスの乗ったベッドが二つ並べられ、黄ばんだカーテンが窓にはかけれている。その窓はしっかりと木の板で塞がれていた。
ベッドの隣にはひっくり返された大きめのスポーツバッグがある。どう考えてもこの客間にあったものとは思えない。千歳が持ってきたのだろう。
《探索可能場所》
スポーツバッグ
・スポーツバッグ
中には服や小物が詰め込まれていた。やはりこれは千歳のもののようだ。
【目星】
その奥からひとつ、写真立てに仕舞われた写真を見つける。大切そうに奥へ奥へと仕舞われたそれにはあなたが映っていた。あなたは写真の中でしあわせそうに笑っている。
ただ、あなたにはこの写真を撮った記憶が無い。あなたはカメラを見ているから盗撮ではないだろう。では、この写真はなんだ?
見覚えのない写真にSAN値チェック0/1。
【アイデア】
写真の中の自分に違和感を覚える。何かが違う、そんな気がしてならない。だが何が違うのかは分からない。
『遊戯室』
広々とした部屋だ。古びているがダーツの台やビリヤードの台が置かれている。隅には小さいがバーカウンターまで設置されている。
ボールやキュー、ダーツの矢は無いので遊べないが雰囲気だけは味わえるだろう。
【目星】
バーカウンターの奥、その隅に紙切れが落ちていることに気付く。真新しいため元々この部屋にあったものでは無さそうだ。
・紙切れを読む
紙切れには震える文字が連なっていた。ほとんどの文字は重なっていたり、震えにより大きく歪んでいたりして読めない。読める範囲では、
『万季が死んだ。私が万季を殺した。何度も何度も私が殺した。違う、そうではないのに。それでも殺してしまう』
『これで最後だ』
と書かれていた。ひっくり返すと裏面には『小箱 婚約記念日 0714』という走り書きのようなメモがある。
『小箱を開ける』
小箱の鍵に『0714』と入れると、鍵はかちゃりと音を立てて外れた。
小箱を開けるとその中には布が敷かれており、中央には指輪がひとつ入っている。光を受けてきらきらと銀色に光るそれは、千歳が首にかけている指輪と同じものだ。
【指輪に目星】
指輪の内側に『C・M』と彫り込んである。また、あちこちが赤黒く汚れている。
【汚れに医学】
これは血だ。SAN値チェック0/1。
『図書室』
図書室には埃の積もった本がたくさん本棚に詰め込まれていた。どれも分厚く、難しそうな本ばかりだ。革で丁寧に装丁されたそれらは高級品であることが伺えるだろう。
【本棚に目星】
本が一冊抜け落ちている箇所を見つける。最近持ち出されたようだ。
【図書館】
その中から一冊、最近取り出された形跡のある本を見つけた。
タイトルには『ストックホルム症候群と恋愛感情』と書いてある。だか日焼けのせいでページ自体がぼろぼろになっており読める箇所は少ない。
・読む
何とか読める部分にのみ目を通すと
『ストックホルム症候群とは、誘拐事件や監禁事件において被害者が犯人に恋愛感情や強い共感などの好意的な感情を示すことである。
これは生存戦略の一環であると言われている。被害者が犯人に対して好意的であり、協力的であれば生存の可能性が高まるからだ。
しかし、もしこの状態が続くとしたらどうだろうか? 誘拐監禁状態が続くとしたら、ストックホルム症候群による恋愛感情が被害者に刷り込まれることにならないだろうか。
そうなるならばこの恋愛感情は本物になる、かもしれない』
と書いてあるのがわかった。最近取り出されたということは、これを読んだのは千歳だろう。自分の状況と本の内容が重なる。ストックホルム症候群、嫌な予感を覚えたあなたはSAN値チェック0/1。
『二日目の探索終了』
あなたが階段の方へ戻ると、千歳はふらつきつつも何とか立ち上がった。体調は見るからに悪化しておりその頬は赤い。
「あぁ、夕食にしましょうか……。こんな体調だから悪いけどレトルトでいいかしら?うつったら困るものね」
彼女はそう言うと、やはりふらつきながら何とかして階段を下りようとする。
__あなたはその様子を見て、心配になる。
この誘拐犯に対して、だ。彼女を支えてあげたい。彼女を助けたい。支えになってあげたいあなたはそう思うだろう。
助けたいという気持ちに抗うならPOW×5に成功する必要がある。失敗すると不本意ながら千歳を助けてしまうだろう。
・食事の前
あなたをベッドの上に連れていくと、千歳は思い出したように顔を上げ近くの机に置かれた本を取るとあなたに手渡した。
「待ってる間は暇でしょう。これでも読んでいて」
手渡されたのはずしりと分厚い一冊の本だ。古い紙の匂いがする。高級そうな革の装丁は図書室にあった本と同じものだ。
「それじゃあ、行ってくるわ」
そう言って千歳は部屋を出ていく。彼女は部屋を出たあと、扉からがちゃりと音がした。鍵をかけられたのだろう。
『本を読む』
本のタイトルは『タイムパラドックス、または他の時間に関する様々な方法』だ。革の裏表紙に細かい金の文字でそう書いてある。
開けば、そこにはよく分からない文字が羅列されていた。あなたの知るどの言語でもない、未知の言葉。
ぐにゃぐにゃと折れ曲がる記号のような、無作為なその線は言語として成立しているように思えない。なんだかとても気味が悪い。SAN値チェック1/1d3。
・SAN値チェック後
あなたがその本に対して恐怖していると、千歳が戻ってくる。その手にはレトルトのハヤシライスが乗っていた。デミグラスソースの香ばしい匂いが食欲をそそる。
「レトルトだけど、味は保証するわ。私が作ったのより安心して食べられるんじゃない? 」
彼女はそう言ってハヤシライスを机に置いた。
・食事後
食べ終わると、やはり眠気に襲われる。精神的疲労のせいだろうか、こんな環境に置かれて自分はとても疲れているのかもしれない。
それはそうだ。大切に、丁重に扱われているとはいえ自分は誘拐されて監禁されているのだから。
その事実が込み上げる。だが、それ以上に眠くて仕方がない。
・就寝
あなたがベッドに潜り込むと、千歳があなたの寝顔を覗き込む。その目はどこまでも優しく、愛おしげだ。
その声があなたを安心させるようにささやく。
「おやすみ、万季」
そしてあなたは微睡みに落ちていく__。
【聞き耳】
眠りに落ちるその寸前、凛とした千歳の声が聞こえた。
「あと、一日」
『夢』
__柔く手を包む温度で、あなたははっと目を覚ました。隣にはあなたの恋人である千歳がおり、あなたを見つめている。
あなたは彼女と手を繋いでいた。それになんの疑問もあなたは抱かない。恋人が手を繋ぐのは当然のことだからだ。
絡み合う指先、彼女の体温に触れればいつだってしあわせな気持ちが湧き上がった。
指を絡めれば彼女は照れたように笑って、でも何度だって応えてくれる。繋いだ手を離さないように、あなたたちは歩いている。
だが、運命とは残酷だ。
「あ、」
誰かのそんな呆けた声が聞こえると同時に、あなたはがらがらと何かが崩れる音を聞いた。金属がぶつかり合う嫌な音だ。頭上から何かが落ちてくる。
大きく、巨大な質量が。あなたを押し潰そうとする。みれば何本もの鉄骨があなたへと迫っていた。
あなたは反射的に彼女の手を離す。優しい体温が遠ざかる。離したくなかった手が離れていく。
鉄骨が迫る中、走馬灯のように様々な感情が駆け巡った。彼女をひとりぼっちにしてしまう、置いていくことになってごめん、結婚式もできない、ドレスだって着れない。
それでも手を離したことに後悔はなかった。
彼女を連れていきたいとは思わない。彼女を守りたいと、そう、思うから。
思考は意外な程に冷静で、死の運命をあなたは柔く受け止めていた。むしろ千歳では無くてよかったと、そう思うほどに。
ぐちゃりと全身が潰される痛みに塗りつぶされ、あなたは死ぬ。
鉄骨の隙間、そこから最後に見えたのはあなたに手を伸ばす千歳の姿だった。
三日目
あなたははっと目を覚ます。そして自分が生きていることに安堵するだろう。
そうだ、だってあれは夢なのだから。自分自身の死という、単なる悪夢なのだから。
しかしあなたは同時に心のどこかで確信している。あれは夢ではない、事実だと。死を体験したあなたはSAN値チェック1/1d4。
・SAN値チェック後
あなたはふと、そこで千歳の姿がないことに気がつく。辺りを見渡せば、あなたはベッドの横で倒れている千歳に気が付くだろう。
その息は荒く、熱い。頬も見るからに赤く染っており、汗が滲んでいる。体調が良くないことは一目瞭然だろう。
彼女はただ目を閉じて荒い呼吸を繰り返している。意識はなさそうだ。
それを見てあなたに込み上げるのは『心配』だ。大切な彼女が熱に苦しんでいる。彼女を想うならば、この感情は当然だ__。
あなたは我に返る。この、気持ちはなんだ? 昨日芽生えた彼女への恋心が強く、より強くなっているように感じる。
なんとかまだ抗えるが、いつかはこの気持ちに侵食されてしまうのだろうか。そんな予感にSAN値チェック0/1。
・SAN値チェック後
ふと、彼女の胸からふたつの鍵が飛び出しているのが見える。それはタグ付けされており、片方のタグには『足枷』もうひとつには『地下室』と書いてある。
【KPCに医学】
発熱しており、体調はかなり悪いと思われる。少しくらいならそばを離れても問題なさそうだが、すぐに戻ってきた方がいいかもしれない。
【KPCの服を漁るなどの宣言】
彼女の服を漁ると彼が首から下げていた指輪が目に入った。それは小箱に入っていた指輪と同じものだ。内側にイニシャルが彫られている。
『物置』
物置の奥にある扉。それに地下室の鍵を差し込むとかちゃりと音がしてそこが開く。
扉を開けるとそこには下へ降りる階段があった。どうやら地下室があるようだ。わざわざ隠されているということは地下に自分の荷物があるのかもしれない。
『地下室』
階段を下りると、そこにはカーペットが敷かれて机が置かれただけの簡素な地下室があった。
ランプがぽつんと置かれており電気がつけっぱなしになっている。そのため薄暗いが辺りを見渡すことが出来る。机の上には小さな鞄がひとつ置かれているだけだ。
《探索可能場所》
鞄
・鞄
鞄の中には一冊の手帳と写真立てに入った写真、空の香水瓶、あなたがここに来た時に千歳に回収されたであろうスマートフォンなどの荷物が入っている。
《探索可能場所》
手帳、写真、香水瓶
〈KP情報〉
・スマートフォン
これで助けを呼ぼうとした場合、充電切れなどの理由で出来ないと伝えてください。
・手帳
手帳は千歳のもののようだ。だが、その手帳の日付は何年先もの未来のものでありどう考えても今買えるものでは無い。
白紙のページ部分に日記のようなものがつらつらと書いてある。日記の内容は
『万季が死んだ。でも、そんなのってありえない。もうすぐで結婚式の予定だったのに。幸せになる予定だったのに。
嫌だ。万季、帰ってきて。
万季を取り返す方法を見つけた。この香水があれば時の腐肉喰らいに見つからずに済む。
時間を遡れる。事故の前に助ければいいんだ。万季、今、迎えに行くわ。
万季が死んだ。どうして? 本来死ぬはずの事故にあう前に、万季は車にはねられて死んだ。これはおかしい、おかしい……。どうしてこうなったの。
ごめんね失敗して。大丈夫、次は必ず迎えに行く。
どうして万季が死ぬの? 嘘だ。まただめだった。
失敗した。
失敗した。
失敗する度に、少しずつ万季の死が早くなる。飛ぶ度に死因が変わる。こんな、どうして。死ぬことからは逃げられない?
そんなことない。認めない。
失敗した。
失敗した。失敗した。失敗した。失敗した。失敗した。失敗した。失敗した。失敗した。失敗した。失敗した。失敗した。失敗した。失敗した。失敗した。失敗した。失敗した。失敗した。失敗した。失敗した。失敗した。失敗した。失敗した。失敗した。失敗した。
失敗した。
どうして? そろそろ匂いが薄くなってきた。香水も残り少ない。
私と出会ってから三日以内に万季は死ぬ。私が接触したから死ぬ?いや、私が接触しなくても万季は死ぬ。
私が万季の死を早めてる?
そんな。もう一度会いたいなんて、それも許されないの?
何度繰り返したって、会いたいと思ってしまうのは許されないの?
わかった。ひとつの命を助けるには、代わりの命がいる。
それなら私の命を捧げる。
私の愛しい、橘万季に。
これで最後だ。とうとう万季が私と出会う前まで来てしまった。
大丈夫、大丈夫だ。もう使える精神力も正気も残ってない。これで最後なら、なりふり構っていられない。
万季を監禁して、三日間守り抜く。危険なものは排除する。何もかも取り上げてしまえば大丈夫。
私の目の届く範囲で、管理する。これならきっと上手くいく。大丈夫だ。
私はきっと狂ってる。ごめんね。
愛してる』
といったものだ。再度読み返すと手帳のスケジュールには『万季とのデート』『万季の誕生日』『万季との結婚式』といったあなたとの予定が書き込まれている。
・写真
あなたと千歳が寄り添い、笑っている写真だ。結婚式の下見に来たのか背景はチャペルで、あなたたちは世界の誰より幸せそうに笑っている。 全ての幸福を手に入れたような、そんな表情で。
・香水瓶
青い硝子が美しい香水瓶だ。中身は入っていない。
【聞き耳】
ほんのり甘い、花の匂いがする。
・探索終了後
あなたが鞄の中身を見終わると、見計らったようにぐらりと地面が揺れた。物置にあったがらくたたちが落ちたのか派手な音が響く。
地面は揺れ続け、屋敷からはぎしぎしと音がする。
早く逃げなくては、そう思った瞬間、ドシャァッ!! っと頭が痛くなるほどの轟音が耳を貫いた。どうやら玄関ホールの扉あたりからのようだ。
・逃げ出す
慌てて階段をのぼったは良いものの物置にはたくさんのがらくたが転がり、あなたの行く手を阻んでいる。
地下を出れば薄くあたりから煙が上がっているのが見えるだろう。火元がどこか分からないが、どこからか火の手が上がっているようだ。
・物置から脱出
あなたが物置から抜け出すと、施錠されていた玄関ホールへの扉が開いていた。いや、開いているというよりは壊れていると言った方が正しいだろう。
二階が崩れ、その瓦礫が扉を破壊してくれたようだ。扉の奥を見れば玄関ホールと外への扉がある。外へ行く扉はどうやら施錠されてないようで薄く開いていた。
千歳は意識を失っていた。彼女はきっとあなたが閉じ込められていた寝室で倒れているのだろう。
ここに千歳はいない。あなたの足に枷はない。今ならここから逃げ出すことが出来る。
〈KP情報〉
・エンディング
このまま外へ行くならばエンディング『初恋は一度きり』へ 7ページへ
『寝室に向かう』
寝室に向かうとその扉は崩れていた。ぎりぎり原型を保った部屋の奥には瓦礫の山があり、そこにはぽつんと千歳が立っている。
その左足は奇妙な方向に折れ曲がり、あちこちが血で汚れている。彼女はあなたが来たことに気がつくと、はっとその表情を凍りつかせた。
「どうして来たの!早く逃げなさい!」
〈KP情報〉
・KPC
KPCは逃げようとしません。自分の命を支払えばPCの死を塗り替えられると信じています。KPCがPCの代わりに死ななければPCは死亡します。
・KPCの脚
折れているため彼はここから逃げられません。逃げる気もありません。だが足が折れていて抵抗できないため彼を無理矢理連れ出すことは可能です。
・KPCの行動
KPCはPCが一人で逃げるように説得します。KPCの正体を知っていると言えばKPCは隠すのをやめ、全てを正直に話してくれます。
KPCの説得のカード
・自分が死んでもこの時代には過去の自分がいる。
・自分が生き残ってももう香水がないので、時の腐肉喰らい(ティンダロスの猟犬)に殺されてしまう。
・最初からPCを生かすために始めたことだから後悔はない。むしろPCがここで死ぬと全て無駄になってしまう。
『エンディング分岐』
KPCに会わず、一人で洋館から脱出した。
エンディング『初恋は一度きり』7ページへ
KPCを置いて逃げる。
エンディング『二度目の初恋』8ページへ
KPCを連れて無理矢理逃げる。
エンディング『最後の初恋』9ページへ
KPCと心中する
エンディング『初恋性ストックホルム症候群』10ページへ
上記にない何かしらを行う。11ページへ
橘万季 成崎千歳 「初めまして、誘拐犯よ」 「私の初恋を叶えてくれない?」 目が覚めると、見知らぬ部屋のベッドの上。 足枷をつけられたあなたに微笑みかけるのは、見知らぬ人。 「貴方を好きになったの。初恋よ」 「だから、貴方も私を好きになってちょうだい」 「初恋は叶わない……なんて、嫌でしょう?」 あなたを誘拐し、監禁したその人は酷く愛おしそうに囁いた。 【クトゥルフ神話TRPGシナリオ】初恋性ストックホルム症候群 草木も眠り、月だけがぽっかりと街を見つめる深夜。不気味なほどくらい帰り道をあなたは歩いていた。仕事帰りだろうか、なにか用事があったのだろうか。 そんな中、あなたはふと公園に差しかかる。時計を見れば23時59分、あとわずかに針が傾けば日付が変わってしまうだろう。 もうこんな時間か、あなたは背を向けて再び帰り道を歩き出す。 しかし、突然の鈍い痛みがあなたを襲った。一瞬後、後頭部を殴られたことに気付く。声を出す前にぶつりと、糸を引きちぎるように意識が途切れた。 【聞き耳】 意識が沈むその間際、カチリと針の進む硬い音がした。日付が変わったのだろうか、そんな呑気な考えがふと泡のように浮かび、ぱちんと意識とともに消えた。 『洋館 寝室』 ゆっくりと、誰かが近くにいるような感覚に揺さぶられてあなたは目を覚ました。 ぼやける視界に映ったのは古びた天井、そして柔らかなシーツ。自分がベッドに寝かされていることにあなたは気付くだろう。 「起きたわね、万季」 聞き覚えのない声があなたの名前を呼ぶ。ギシリとベッドを鳴らしてあなたをのぞき込むのは見知らぬ女性。 彼女はあなたに指を伸ばし、頬に触れて僅かに微笑む。 「案外元気そうね、おはよう。と言ってももう昼だけれど」 見知らぬ場所、見知らぬ人。ぞわりと産毛が逆立つような恐怖をあなたは覚えるだろう。そんなあなたを見て、彼女は薄らと笑みを浮かべて続ける。 「初めまして、貴方を誘拐した成崎 千歳(なるさき ちとせ)よ。これから末永くよろしく」 __誘拐、そして監禁。なんてことなさそうに告げるその人にさらなる恐怖が混み上がる。SAN値チェック1/1d2。 【KPCに聞き耳】 ほのかに花の匂いがする。 【博物学、生物学】 この花がこの世界のどこにも存在しないものだとわかる。SAN値チェック0/1。 《質疑応答例(KPC)》 あなたは誰? 「私は成崎千歳だって言ってるじゃないの。貴方にとっては『誘拐犯』でもあるわね」 ここはどこ? 「あー………。どこかの洋館よ、結構広くていいところでしょ?」 帰りたい。 「帰さない」 いつまでここにいればいいの? 「………私こと、好きになるまで」 なんで誘拐したの? 「貴方に一目惚れしたから。初恋よ」 ・ある程度会話した 千歳は微かに口元に笑みを浮かべ、あなたを見つめている。そしてふっと目を細めると少し眉を下げ、少しだけ小さな声で囁いた。 「怪我は痛くない? 手荒な真似してごめんなさいね」 誘拐犯である彼女はあなたを心配するような事を言うだろう。 【心理学】 本気であなたを心配し、殴ったことを申し訳なく思っているのがわかる。 ・KPCに心配された後 ちらりと目線を向ければここは何処か朽ちた寝室だった。あなたが寝かせられているベッドの他には一枚の扉、そして木が打ち付けられた窓があるだけだ。 ここであなたは自分の右足に違和感を覚える。見れば、そこには鉄でできた丈夫そうな足枷がはめられていた。 鎖が長く伸びており、それは床にある金具に取り付けられている。逃がさないというように。 《探索可能場所》 足枷、窓、ベッド、KPC、扉。 ・足枷 黒い鉄で作られた足枷は鍵がかけられており、壊せそうにない。鎖はかなり長く、この部屋を出てもまだまだ余裕がありそうだ。 ・窓 木の板でしっかりと塞がれている。ワイヤーで補強された板なので素手で壊すのは難しそうだ。 【聞き耳】 外から人の声は聞こえない。また人の気配もない。大声で騒いだりしても助けは来ないだろう。 ・ベッド あなたが寝かせられていたベッドだ。黄ばんだ天蓋が吊るされており、全体的に古びているが敷かれたシーツは新品のようだ。枕元に小さな時計が置いてあり、それは昼前をさしている。 どうやら自分は半日近く寝ていたのだとここでようやく気が付くだろう。 ・KPC よく見ると彼女の首に金のロケットペンダントがかかっているのが分かった。 ・扉 普通の木の扉であり、鍵はかかっていないようだ。あなたがその扉に触れると千歳は 「動ける範囲は好きなところ行ってどうぞ。私もついていくけれど」 とあなたに声をかけてくる。 『部屋を出る』 部屋を出ると広々とした広間に出た。若干埃っぽい。この部屋以外に四つの部屋があり『厨房』『物置』『書斎』『衣装室』と書かれている。上へ向かう階段もあるが、鎖の長さが足りないので上へ行くことは出来ないだろう。 また、玄関ホールへ向かう大きな扉がある。 《探索可能場所》 厨房、物置、書斎、衣装室、玄関ホールの扉 『厨房』 中に入ると良い香りがした。見ればことことと電気式コンロの上で鍋が鳴っている。何やら料理をしている最中のようだ。厨房は多少古びているが十分使えそうに見える。また、持ち込まれたであろう冷蔵庫が置いてあった。 《探索可能場所》 鍋、冷蔵庫 〈KP情報〉 ・聞き耳 扉に聞き耳をしたいという宣言があった場合『かすかに機械音がする』と描写してください。 ・鍋 開けるとそこには美味しそうなクリームシチューが入っていた。あなたの好きなものだ。好物の良い匂いにぐぅ、とあなたのお腹が鳴る。千歳はにやりと笑い「昼食にしましょうか?」と訊ねてきた。 【アイデア】 このクリームシチュー、あなたの苦手なにんじんが入っていない。もしや好みを完全に把握されているのではないかと思い身の毛がよだった。SAN値チェック0/1。 ・冷蔵庫 何の変哲もない普通の冷蔵庫のようだ。開けると中にはあなたの好きなものが詰め込まれている。 【アイデア】 この屋敷は全体的に古びており、人が住まなくなってから長い時間が経ったように思える。電気が通っているとはとても思えないが、確かに冷蔵庫は動いているしコンロも動いている。 ・冷蔵庫、コンロのコンセントを確認するという宣言があった場合の描写。 コンロ、冷蔵庫のコンセントが小さな機械に接続されているのを見つけた。それは辞書ほどの大きさしかない真っ白な機械で、スイッチなどはない。 【白い機械に対して電気修理、電子工学】 これはバッテリーのようだがどうにもおかしい。このサイズで電気コンロや冷蔵庫といった大型の家電を動かすなんて出来ないだろう。 この機械の仕組みや使い方もよくわからない。おかしなことに気付いたあなたはSAN値チェック0/1。 ・厨房である程度探索を終えた 「こっちに来たなら折角だし食事にしましょう」 千歳はそう言うと鍋からシチューをよそってテーブルに置く。ミルクとコンソメの匂いがあなたの空腹を刺激した。 〈KP情報〉 ・食事 食べるとKPCは喜びます。また、食べない場合はCON×5ロールが発生し、失敗すると空腹により何か食べるまで全技能に-10%の補正がつきます。 『書斎』 埃をかぶった書き物机、革張りの椅子、小さな本棚があるシンプルな部屋だ。分厚い絨毯がしかれている。 《探索可能場所》 書き物机、本棚 ・書き物机 古びているが丈夫そうな机だ。上にはインク軸のないボールペンだけが瓶に入れられて置かれていた。 引き出しが半分ほど開いており、その中には二枚の見取り図が入っていること。どうやらこの屋敷の見取り図のようだ。 ここで屋敷の見取り図を公開する。 ・本棚 分厚い本が数冊収められている本棚だ。どの本もあなたの知らない言語で書かれており内容は分からない。 【図書館】 本の中から地図が描かれたものをみつける。言語は違うがこれは地図帳で、これはどうやらここら一帯の地図のようだ。 【地図に目星、アイデア、ナビゲート】 眺めていると自分の家が建っている地区が目に入った。どうやらここから自宅までそう遠くはないようだ。 ここは少し離れた丘の上で、周りに家はないものの丘を下りれば街があることもわかる。 『衣装室』 そこは部屋がまるごとクローゼットになったような場所だった。あちこちに古びた、しかし豪勢な服が吊り下げられている。 装飾が施された棚もあり、そこにはいくつかアクセサリーが収められている。 【目星】 衣装の隙間から真っ白な布が見えた。 取り出すと、それはウェディングドレスだった。純白のレースとチュールに、散りばめられたガラスビーズ。きらきらと照明を反射して光るそれはとても綺麗だ。 【ドレスにアイデア】 このドレスが自分にぴったりのサイズであることに気が付く。これは、あの誘拐犯のものだろうか。気味の悪さにSAN値チェック0/1。 〈KP情報〉 ・婚礼衣装 PCによってドレスかタキシードかは変えてください。 未来のPCとKPCが二人で選んだドレスで、PCが着る予定のものでした。KPCは「結婚式に必要だろ?」などと言って誤魔化します。 時間遡行の方法を見つける間の心の励みにしていたからなど、KPCがこれをわざわざ持ってきた理由は好きに設定してください。 ・サイズ PCがまだ幼い場合は成長して体型が変わる可能性があるのでアイデアの情報は出さなくて良いです。 『物置』 薄暗く、一際埃っぽい場所だ。がらくたがあちこちに積み重ねられている。目を凝らせば奥にもう一枚、扉があることに気付くだろう。 【目星】 物置の中でひとつ、綺麗なローテーブルを見つける。その表面は丁寧に磨かれており、上には木でできた小箱が乗っていた。四桁のダイヤル錠がついており、あかない。 ・小箱について言及する。小箱に触れる あなたが小箱を持つと、千歳が「……あ」と声をもらす。そしてあなたの手を取ると、小箱ごと愛おしそうに手の甲をなでるだろう。 「…………」 彼女は静かに小箱を見つめ、どこか愛おしげに、どこか悲しげにあなたと手ごと小箱を握りしめた。意外な程に柔く優しい体温があなたの手にじんと響く。 「ねえ、それ。貴方が持っていてちょうだい」 「………お願い」 震える彼女の声はどこか頼りなく、親とはぐれた幼い子どものようだった。 ・物置を出ようとした あなたが物置を出ようとすると、頭上からがらりと音がした。何が起きたか把握する前に千歳があなたの腕を掴み、壁にあなたを押し付ける。 掴まれた腕が痛い、そう思った瞬間、凄まじい音と埃を上げてがらくたが上から落ちてきた。どうやら積み上げていたもののバランスが崩れたらしい。 あなたを庇うように立つ千歳のこめかみに小さな箱が激突し、彼女から血が流れた。 「大丈夫!?」 千歳の声が響く。大怪我をしているというのに、彼女自分の傷などそっちのけで心配そうにあなたに触れた。その目は心配そうに揺れている。 先程まであなたがいた場所には、がらくたの山が出来ていた。彼女が庇ってくれなかったら今頃彼よりもひどい怪我を負っていただろう。 『玄関ホールへの扉』 ほかのものよりも大きく立派な扉だ。丈夫そうな扉の取手には鎖が幾重にもかけられており、その上から南京錠で止められている。開けることは出来ないだろう。 『一日目の探索が終了した』 あなたがある程度調べ終わる、千歳が思い出したように声をかけてくる。 「……もう夜かしら。万季、食事にしましょう」 彼女はそう言ってあなたの手を取ると、あなたを厨房へ連れていく。あなたを厨房へ入れると、彼女は抜け目なく厨房の扉に内側から鍵をかけた。あなたが逃げられないように。 そして冷蔵庫から食材を取り出すとあなたを見て「何か食べたいものは?」と尋ねてくるだろう。 ・KPCが料理をする 千歳は慣れた手つきでとんとんと食事を作り、あっという間にあなたに振舞ってくれるだろう。 白い湯気をあげるほかほかのオムライスはとろとろの卵に真っ赤なトマトソース、上にはとろけたチーズがかけられておりてとも美味しそうだ。 【アイデア】 このオムライス、あなたの苦手なにんじんが入っていない。もしや好みを完全に把握されているのではないかと思い身の毛がよだった。SAN値チェック0/1 ・食事を終えた 食事をすると、満腹感からかゆっくりと眠気がおりてくるだろう。それに今日は本当に色んなことがあって疲れてしまった。 特に精神面でだ。もう、眠ってしまいたいという欲求が頭をもたげるだろう。 ・就寝 あなたがベッドに入ると千歳は優しく微笑んだ。彼女はあなたの頬を軽く指でなぞり、愛おしそうに囁く。まるで恋人のように。 「__万季、おやすみなさい」 彼女は誘拐犯だ。初恋だ、なんだと言って人を攫うような狂人だ。 それなのにその声は酷く優しい。その目も、温度もそうだ。触れる指先は柔く、それはあなたをゆっくりと眠りに落としていった。 『夢』 __柔く手を包む温度で、あなたははっと目を覚ました。青い空と柔らかな日差し、あなたの頬を撫でる風。とある街角にあなたは立っていた。 「万季、今日はどこに行こうかしら?」 甘い声がかかる。隣を見れば頬を染めて幸せそうに笑う千歳が立っており、あなたをただ恋しげに見つめていた。彼女はあなたと手を繋いでおり、指が絡んでいる。あなたはこれに愛おしさすら覚えるだろう。 彼女は、千歳はあなたの恋人なのだから。 彼女と視線が交わる。目が合う、それだけで彼女は嬉しそうにはにかんだ。繋がる体温も、その瞳も、どうしようもなく愛おしい。彼女の優しい視線に胸が高鳴った。 「……そんな嬉しそうにされると、なんだかこっちも照れるわよ」 「ほら、行きましょう万季。折角のデートなんだから」 彼女はあなたの視線に照れたように目を逸らしつつそう言った。 今日は天気も良く、世界の全てがあなたたちを祝福しているように感じる。 どこへ行こうか、なんて話をしながらまた目を合わせる。彼女と一緒ならばどこへ行ったってとびきりの一日になるだろう。 ぎゅうと手を強く繋いで、あなたたちは歩き出した。 二日目 ・目覚め __あなたは目を覚ます。薄く目を開けて自分のいる場所を確認すれば、そこは誘拐犯に連れてこられたベッドの上だった。足首の重い感触は足枷だろう。 あなたが起きたことに気がつくと千歳は手を止めた。どうやら首から下げているネックレスについたロケットペンダント、その中にしまい込まれていたらしい指輪を見ていたようだ。 彼女の手の中で銀の指輪がきらきらと光をこぼす。彼女はあなたを見て微笑んた。 「おはよう」 その優しい笑みにあなたの胸はほんの少し、だが確かに高鳴る。まるで心臓が恋を覚えたように。 「朝ごはん、用意してあるわよ」 そのしんと響く声にすら好意を覚えてしまう。 逃げるように彼女が指さした先、ベッドサイドにあるテーブルを見ればそこにはコンビニのパンとジュースのパックが詰まれていた。どれもあなたの好きな物ばかりだ。 それを嬉しいと思うのは、おかしいだろうか。 微かだが、まるで恋のようなものが自分の中にあることに対してSAN値チェック0/1。 ・SAN値チェック後 千歳は指輪を服の中に仕舞うとあの夢で見たのと同じ、どこまでも優しく恋しげな目であなたを見つめ始めた。 その視線にどうしても心がざわついてしまう。胸が高鳴ってしまう。それが落ち着かなかった。 【KPCに目星】 その頬がほんのり赤く、ほんの少しだが息も荒い。調子が悪そうに思える。 【目星成功後医学】 KPCが体調を崩しているのがわかる。微熱もあるだろう。 ・食事を終えた あなたが食べ終えたのを確認すると彼女は困ったように笑った。 「ごめんなさい、今日は少し体調が良くなくて……。今日はあまり貴方についていけないわ。あぁ、貴方とってはいいことだったかしら。ふふ………」 「……鎖は伸ばしておいたし、入ってほしくないところには鍵をかけてあるから。行ける範囲で好きなところ行っていいわよ。暇でしょう?」 鎖を確認すると、確かに鎖が長くなっている。これなら二階に行くこともできるだろう。 『二階』 あなたが階段を登ると千歳はついてくる。少しふらついているが手すりをしっかりと握っているので転がり落ちることはないだろう。 二階には部屋が三つあった。一つ一つの部屋にプレートがかけられ『客間』『遊戯室』『図書室』と書いてある。千歳はあなたを見ると、階段の横に倒れ込むようにして座った。 「…………私は、ここで待ってる………。お願いだから、お願い………危険なことだけはしないで…………」 そしてそのまま熱い息を吐くだろう。体調はやはり芳しくないようだ。 《探索可能場所》 客間、遊戯室、図書室 『客間』 広々とした客間だ。あなたが監禁されている部屋より埃っぽく、汚れが目立つ。 劣化したマットレスの乗ったベッドが二つ並べられ、黄ばんだカーテンが窓にはかけれている。その窓はしっかりと木の板で塞がれていた。 ベッドの隣にはひっくり返された大きめのスポーツバッグがある。どう考えてもこの客間にあったものとは思えない。千歳が持ってきたのだろう。 《探索可能場所》 スポーツバッグ ・スポーツバッグ 中には服や小物が詰め込まれていた。やはりこれは千歳のもののようだ。 【目星】 その奥からひとつ、写真立てに仕舞われた写真を見つける。大切そうに奥へ奥へと仕舞われたそれにはあなたが映っていた。あなたは写真の中でしあわせそうに笑っている。 ただ、あなたにはこの写真を撮った記憶が無い。あなたはカメラを見ているから盗撮ではないだろう。では、この写真はなんだ? 見覚えのない写真にSAN値チェック0/1。 【アイデア】 写真の中の自分に違和感を覚える。何かが違う、そんな気がしてならない。だが何が違うのかは分からない。 『遊戯室』 広々とした部屋だ。古びているがダーツの台やビリヤードの台が置かれている。隅には小さいがバーカウンターまで設置されている。 ボールやキュー、ダーツの矢は無いので遊べないが雰囲気だけは味わえるだろう。 【目星】 バーカウンターの奥、その隅に紙切れが落ちていることに気付く。真新しいため元々この部屋にあったものでは無さそうだ。 ・紙切れを読む 紙切れには震える文字が連なっていた。ほとんどの文字は重なっていたり、震えにより大きく歪んでいたりして読めない。読める範囲では、 『万季が死んだ。私が万季を殺した。何度も何度も私が殺した。違う、そうではないのに。それでも殺してしまう』 『これで最後だ』 と書かれていた。ひっくり返すと裏面には『小箱 婚約記念日 0714』という走り書きのようなメモがある。 『小箱を開ける』 小箱の鍵に『0714』と入れると、鍵はかちゃりと音を立てて外れた。 小箱を開けるとその中には布が敷かれており、中央には指輪がひとつ入っている。光を受けてきらきらと銀色に光るそれは、千歳が首にかけている指輪と同じものだ。 【指輪に目星】 指輪の内側に『C・M』と彫り込んである。また、あちこちが赤黒く汚れている。 【汚れに医学】 これは血だ。SAN値チェック0/1。 『図書室』 図書室には埃の積もった本がたくさん本棚に詰め込まれていた。どれも分厚く、難しそうな本ばかりだ。革で丁寧に装丁されたそれらは高級品であることが伺えるだろう。 【本棚に目星】 本が一冊抜け落ちている箇所を見つける。最近持ち出されたようだ。 【図書館】 その中から一冊、最近取り出された形跡のある本を見つけた。 タイトルには『ストックホルム症候群と恋愛感情』と書いてある。だか日焼けのせいでページ自体がぼろぼろになっており読める箇所は少ない。 ・読む 何とか読める部分にのみ目を通すと 『ストックホルム症候群とは、誘拐事件や監禁事件において被害者が犯人に恋愛感情や強い共感などの好意的な感情を示すことである。 これは生存戦略の一環であると言われている。被害者が犯人に対して好意的であり、協力的であれば生存の可能性が高まるからだ。 しかし、もしこの状態が続くとしたらどうだろうか? 誘拐監禁状態が続くとしたら、ストックホルム症候群による恋愛感情が被害者に刷り込まれることにならないだろうか。 そうなるならばこの恋愛感情は本物になる、かもしれない』 と書いてあるのがわかった。最近取り出されたということは、これを読んだのは千歳だろう。自分の状況と本の内容が重なる。ストックホルム症候群、嫌な予感を覚えたあなたはSAN値チェック0/1。 『二日目の探索終了』 あなたが階段の方へ戻ると、千歳はふらつきつつも何とか立ち上がった。体調は見るからに悪化しておりその頬は赤い。 「あぁ、夕食にしましょうか……。こんな体調だから悪いけどレトルトでいいかしら?うつったら困るものね」 彼女はそう言うと、やはりふらつきながら何とかして階段を下りようとする。 __あなたはその様子を見て、心配になる。 この誘拐犯に対して、だ。彼女を支えてあげたい。彼女を助けたい。支えになってあげたいあなたはそう思うだろう。 助けたいという気持ちに抗うならPOW×5に成功する必要がある。失敗すると不本意ながら千歳を助けてしまうだろう。 ・食事の前 あなたをベッドの上に連れていくと、千歳は思い出したように顔を上げ近くの机に置かれた本を取るとあなたに手渡した。 「待ってる間は暇でしょう。これでも読んでいて」 手渡されたのはずしりと分厚い一冊の本だ。古い紙の匂いがする。高級そうな革の装丁は図書室にあった本と同じものだ。 「それじゃあ、行ってくるわ」 そう言って千歳は部屋を出ていく。彼女は部屋を出たあと、扉からがちゃりと音がした。鍵をかけられたのだろう。 『本を読む』 本のタイトルは『タイムパラドックス、または他の時間に関する様々な方法』だ。革の裏表紙に細かい金の文字でそう書いてある。 開けば、そこにはよく分からない文字が羅列されていた。あなたの知るどの言語でもない、未知の言葉。 ぐにゃぐにゃと折れ曲がる記号のような、無作為なその線は言語として成立しているように思えない。なんだかとても気味が悪い。SAN値チェック1/1d3。 ・SAN値チェック後 あなたがその本に対して恐怖していると、千歳が戻ってくる。その手にはレトルトのハヤシライスが乗っていた。デミグラスソースの香ばしい匂いが食欲をそそる。 「レトルトだけど、味は保証するわ。私が作ったのより安心して食べられるんじゃない? 」 彼女はそう言ってハヤシライスを机に置いた。 ・食事後 食べ終わると、やはり眠気に襲われる。精神的疲労のせいだろうか、こんな環境に置かれて自分はとても疲れているのかもしれない。 それはそうだ。大切に、丁重に扱われているとはいえ自分は誘拐されて監禁されているのだから。 その事実が込み上げる。だが、それ以上に眠くて仕方がない。 ・就寝 あなたがベッドに潜り込むと、千歳があなたの寝顔を覗き込む。その目はどこまでも優しく、愛おしげだ。 その声があなたを安心させるようにささやく。 「おやすみ、万季」 そしてあなたは微睡みに落ちていく__。 【聞き耳】 眠りに落ちるその寸前、凛とした千歳の声が聞こえた。 「あと、一日」 『夢』 __柔く手を包む温度で、あなたははっと目を覚ました。隣にはあなたの恋人である千歳がおり、あなたを見つめている。 あなたは彼女と手を繋いでいた。それになんの疑問もあなたは抱かない。恋人が手を繋ぐのは当然のことだからだ。 絡み合う指先、彼女の体温に触れればいつだってしあわせな気持ちが湧き上がった。 指を絡めれば彼女は照れたように笑って、でも何度だって応えてくれる。繋いだ手を離さないように、あなたたちは歩いている。 だが、運命とは残酷だ。 「あ、」 誰かのそんな呆けた声が聞こえると同時に、あなたはがらがらと何かが崩れる音を聞いた。金属がぶつかり合う嫌な音だ。頭上から何かが落ちてくる。 大きく、巨大な質量が。あなたを押し潰そうとする。みれば何本もの鉄骨があなたへと迫っていた。 あなたは反射的に彼女の手を離す。優しい体温が遠ざかる。離したくなかった手が離れていく。 鉄骨が迫る中、走馬灯のように様々な感情が駆け巡った。彼女をひとりぼっちにしてしまう、置いていくことになってごめん、結婚式もできない、ドレスだって着れない。 それでも手を離したことに後悔はなかった。 彼女を連れていきたいとは思わない。彼女を守りたいと、そう、思うから。 思考は意外な程に冷静で、死の運命をあなたは柔く受け止めていた。むしろ千歳では無くてよかったと、そう思うほどに。 ぐちゃりと全身が潰される痛みに塗りつぶされ、あなたは死ぬ。 鉄骨の隙間、そこから最後に見えたのはあなたに手を伸ばす千歳の姿だった。 三日目 あなたははっと目を覚ます。そして自分が生きていることに安堵するだろう。 そうだ、だってあれは夢なのだから。自分自身の死という、単なる悪夢なのだから。 しかしあなたは同時に心のどこかで確信している。あれは夢ではない、事実だと。死を体験したあなたはSAN値チェック1/1d4。 ・SAN値チェック後 あなたはふと、そこで千歳の姿がないことに気がつく。辺りを見渡せば、あなたはベッドの横で倒れている千歳に気が付くだろう。 その息は荒く、熱い。頬も見るからに赤く染っており、汗が滲んでいる。体調が良くないことは一目瞭然だろう。 彼女はただ目を閉じて荒い呼吸を繰り返している。意識はなさそうだ。 それを見てあなたに込み上げるのは『心配』だ。大切な彼女が熱に苦しんでいる。彼女を想うならば、この感情は当然だ__。 あなたは我に返る。この、気持ちはなんだ? 昨日芽生えた彼女への恋心が強く、より強くなっているように感じる。 なんとかまだ抗えるが、いつかはこの気持ちに侵食されてしまうのだろうか。そんな予感にSAN値チェック0/1。 ・SAN値チェック後 ふと、彼女の胸からふたつの鍵が飛び出しているのが見える。それはタグ付けされており、片方のタグには『足枷』もうひとつには『地下室』と書いてある。 【KPCに医学】 発熱しており、体調はかなり悪いと思われる。少しくらいならそばを離れても問題なさそうだが、すぐに戻ってきた方がいいかもしれない。 【KPCの服を漁るなどの宣言】 彼女の服を漁ると彼が首から下げていた指輪が目に入った。それは小箱に入っていた指輪と同じものだ。内側にイニシャルが彫られている。 『物置』 物置の奥にある扉。それに地下室の鍵を差し込むとかちゃりと音がしてそこが開く。 扉を開けるとそこには下へ降りる階段があった。どうやら地下室があるようだ。わざわざ隠されているということは地下に自分の荷物があるのかもしれない。 『地下室』 階段を下りると、そこにはカーペットが敷かれて机が置かれただけの簡素な地下室があった。 ランプがぽつんと置かれており電気がつけっぱなしになっている。そのため薄暗いが辺りを見渡すことが出来る。机の上には小さな鞄がひとつ置かれているだけだ。 《探索可能場所》 鞄 ・鞄 鞄の中には一冊の手帳と写真立てに入った写真、空の香水瓶、あなたがここに来た時に千歳に回収されたであろうスマートフォンなどの荷物が入っている。 《探索可能場所》 手帳、写真、香水瓶 〈KP情報〉 ・スマートフォン これで助けを呼ぼうとした場合、充電切れなどの理由で出来ないと伝えてください。 ・手帳 手帳は千歳のもののようだ。だが、その手帳の日付は何年先もの未来のものでありどう考えても今買えるものでは無い。 白紙のページ部分に日記のようなものがつらつらと書いてある。日記の内容は 『万季が死んだ。でも、そんなのってありえない。もうすぐで結婚式の予定だったのに。幸せになる予定だったのに。 嫌だ。万季、帰ってきて。 万季を取り返す方法を見つけた。この香水があれば時の腐肉喰らいに見つからずに済む。 時間を遡れる。事故の前に助ければいいんだ。万季、今、迎えに行くわ。 万季が死んだ。どうして? 本来死ぬはずの事故にあう前に、万季は車にはねられて死んだ。これはおかしい、おかしい……。どうしてこうなったの。 ごめんね失敗して。大丈夫、次は必ず迎えに行く。 どうして万季が死ぬの? 嘘だ。まただめだった。 失敗した。 失敗した。 失敗する度に、少しずつ万季の死が早くなる。飛ぶ度に死因が変わる。こんな、どうして。死ぬことからは逃げられない? そんなことない。認めない。 失敗した。 失敗した。失敗した。失敗した。失敗した。失敗した。失敗した。失敗した。失敗した。失敗した。失敗した。失敗した。失敗した。失敗した。失敗した。失敗した。失敗した。失敗した。失敗した。失敗した。失敗した。失敗した。失敗した。失敗した。失敗した。 失敗した。 どうして? そろそろ匂いが薄くなってきた。香水も残り少ない。 私と出会ってから三日以内に万季は死ぬ。私が接触したから死ぬ?いや、私が接触しなくても万季は死ぬ。 私が万季の死を早めてる? そんな。もう一度会いたいなんて、それも許されないの? 何度繰り返したって、会いたいと思ってしまうのは許されないの? わかった。ひとつの命を助けるには、代わりの命がいる。 それなら私の命を捧げる。 私の愛しい、橘万季に。 これで最後だ。とうとう万季が私と出会う前まで来てしまった。 大丈夫、大丈夫だ。もう使える精神力も正気も残ってない。これで最後なら、なりふり構っていられない。 万季を監禁して、三日間守り抜く。危険なものは排除する。何もかも取り上げてしまえば大丈夫。 私の目の届く範囲で、管理する。これならきっと上手くいく。大丈夫だ。 私はきっと狂ってる。ごめんね。 愛してる』 といったものだ。再度読み返すと手帳のスケジュールには『万季とのデート』『万季の誕生日』『万季との結婚式』といったあなたとの予定が書き込まれている。 ・写真 あなたと千歳が寄り添い、笑っている写真だ。結婚式の下見に来たのか背景はチャペルで、あなたたちは世界の誰より幸せそうに笑っている。 全ての幸福を手に入れたような、そんな表情で。 ・香水瓶 青い硝子が美しい香水瓶だ。中身は入っていない。 【聞き耳】 ほんのり甘い、花の匂いがする。 ・探索終了後 あなたが鞄の中身を見終わると、見計らったようにぐらりと地面が揺れた。物置にあったがらくたたちが落ちたのか派手な音が響く。 地面は揺れ続け、屋敷からはぎしぎしと音がする。 早く逃げなくては、そう思った瞬間、ドシャァッ!! っと頭が痛くなるほどの轟音が耳を貫いた。どうやら玄関ホールの扉あたりからのようだ。 ・逃げ出す 慌てて階段をのぼったは良いものの物置にはたくさんのがらくたが転がり、あなたの行く手を阻んでいる。 地下を出れば薄くあたりから煙が上がっているのが見えるだろう。火元がどこか分からないが、どこからか火の手が上がっているようだ。 ・物置から脱出 あなたが物置から抜け出すと、施錠されていた玄関ホールへの扉が開いていた。いや、開いているというよりは壊れていると言った方が正しいだろう。 二階が崩れ、その瓦礫が扉を破壊してくれたようだ。扉の奥を見れば玄関ホールと外への扉がある。外へ行く扉はどうやら施錠されてないようで薄く開いていた。 千歳は意識を失っていた。彼女はきっとあなたが閉じ込められていた寝室で倒れているのだろう。 ここに千歳はいない。あなたの足に枷はない。今ならここから逃げ出すことが出来る。 〈KP情報〉 ・エンディング このまま外へ行くならばエンディング『初恋は一度きり』へ 7ページへ 『寝室に向かう』 寝室に向かうとその扉は崩れていた。ぎりぎり原型を保った部屋の奥には瓦礫の山があり、そこにはぽつんと千歳が立っている。 その左足は奇妙な方向に折れ曲がり、あちこちが血で汚れている。彼女はあなたが来たことに気がつくと、はっとその表情を凍りつかせた。 「どうして来たの!早く逃げなさい!」 〈KP情報〉 ・KPC KPCは逃げようとしません。自分の命を支払えばPCの死を塗り替えられると信じています。KPCがPCの代わりに死ななければPCは死亡します。 ・KPCの脚 折れているため彼はここから逃げられません。逃げる気もありません。だが足が折れていて抵抗できないため彼を無理矢理連れ出すことは可能です。 ・KPCの行動 KPCはPCが一人で逃げるように説得します。KPCの正体を知っていると言えばKPCは隠すのをやめ、全てを正直に話してくれます。 KPCの説得のカード ・自分が死んでもこの時代には過去の自分がいる。 ・自分が生き残ってももう香水がないので、時の腐肉喰らい(ティンダロスの猟犬)に殺されてしまう。 ・最初からPCを生かすために始めたことだから後悔はない。むしろPCがここで死ぬと全て無駄になってしまう。 『エンディング分岐』 KPCに会わず、一人で洋館から脱出した。 エンディング『初恋は一度きり』7ページへ KPCを置いて逃げる。 エンディング『二度目の初恋』8ページへ KPCを連れて無理矢理逃げる。 エンディング『最後の初恋』9ページへ KPCと心中する エンディング『初恋性ストックホルム症候群』10ページへ 上記にない何かしらを行う。11ページへ
最終更新日時: 2022/05/11 19:20
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